ラーディックスの底

本と映画の感想、創作小説、ときどき絵

初めてきつねに会った日のこと

 先日、ブログに載せた「クリエイティブの授業」の作者オースティン・クレオンさんの別の著書「クリエイティブを共有」を読んでいて、

知識を貯め込まない

 という章がありました。

 自分の持っている知識を共有しよう、という話なのですが、正直自分は浅学ですし、とても忘れっぽいんです。しかも創作をする方というのは大抵勉強家で、私が伝えられることなんかあるかなぁ、と思いました。

 実体験なら少し違ったことをお伝えできるかなと思い、きつねに関する思い出を書いてみます。※少し長いです。きつねあるあるだったらすみません。

 最近YouTubeで怪談ばかり聞いているのですが、村上ロックさんの動画の中で狐の話がありました。

おまけ怪談付き!村上ロックの怖い話「10+1話まとめ」 - YouTube

 ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、狐狸は人を騙す、と昔からよく言われます。昔話でも、女性に化けて男性を騙し食べ物を奪ったり、道に迷わせたりと、人を惑わせる。

 見た目も好みでしたし、そんな不思議な動物なら会ってみたい。そう幼心に思いながらも、住んでいる地域の動物園にきつねはいなかったので、いつか北海道に行くことがあったら見てみたいなあ、と思っていました。

 けれど、初めてきつねに会ったのは北海道ではなく、他県へ出て、大学に通っている時のことでした。

 

 大学二年生の秋だったと思います。

 当時新聞配達をしていた私は、丑三つ時に原付に乗って、ひび割れた細い道路を走っていました。

 自分の他に車も原付も人もいません。

 周りも田んぼと民家しかなく、明かりはぽつぽつとある街灯と原付のライトだけ。ほとんど真っ暗な道を進んでいくと、先に何か動くものが見えました。

 たぬきだ、と思いました。今までも何度か遭遇していて、こちらの原付の音に驚いて、大きな尻尾を上下に振りながら走り去っていく。そんな姿を見送っては可愛いな、と思っていました。

 また驚かせるのは申し訳ないな、などと考えていると、それがいつもより大きいことに気付きました。

 ぱっと頭に浮かんだのは野犬です。その次に浮かんだがいのししでした。少し前に夜景を見るために山へ向かった友人が途中でいのししに囲まれた、なんて話をしていたのです。動物が好きとはいえ、流石にどっちも嫌だな。でもさっさと通り過ぎれば良いか、そう考えていると、だいぶ距離が近くなり、原付のライトで動くものの姿が照らされました。

 黄色い体毛。犬よりも太い尻尾。しゅっと細い顔。

「きつねだっ!」

 思わず叫んでいました。

 突然大きな声を出されて、きつねは迷惑そうな顔でこちらを見ました。初めて会えたきつねに感動して、ゆっくりとその横を並走したのですが、きつねは怯えた様子も逃げるような様子もなく、私と離れていた時と変わらぬ速さ歩いていました。しまいには「なんだ人間か」とでもいうような顔をして、すたすたと前の方にある林の中に入っていってしまったのです。

 それを残念に思いながらも、配達もあるのでいつもの速度に戻して走り出しました。原付を走らせながらも、まったく逃げ出さなかったきつねについて考えていました。今まで会った野生動物は人の気配を感じると逃げ出していました。

 たぬき、りす、へび。

 皆、逃げていきました。けれど、きつねに会うのは初めてだったので、そういうものなのかもしれないな、なんて思いながら、その地域の配達を進めました。

 

 少ししてその地域の配達を終え、別の地域に向かうため、舗装されていない田舎道を走っていた時のことです。その道は街灯もなく、左右は草がぼうぼうと生えていて、配達を始めたばかりの頃は怖く思っていた道でした。

 道の中ほどまで来たとき、右から何かが飛び出してきました。思い切りブレーキをして、すんでのところで何かにはぶつかりませんでした。

 ライトで一瞬照らされたので、それが何かわかっていました。

 左を見ると、やはりきつねがこちらを見ていました。

 先ほど会った道から、この道はさほど離れていません。だからここにいてもおかしくはないのですが、またも逃げ出さずに、こちらを見ているきつねが不思議でした。

 驚いて飛び出してきたというより、わざと飛び出したのでは、なんて思わされるほどの落ち着きです。けれど、配達が残っていたので、

「飛び出すのは危ないよ」

 とだけ言って、その道を走り去りました。

 その後、きつねには会うことなく、大学を卒業しました。

 

 昔から色々な人が語っているので、本当に人を騙すこともあるのだと思います。

 ただ自分の体験を後になって思い返すと(一回の出会いで判断するのはどうかとも思いますが)人を恐れない態度や夜行性なところが神秘的で、人を騙したり化けたりすると言われる所以なのかなと思いました。

 そして、九尾の狐伝説やキツネの嫁入り狐憑き、神使と様々な形で語られ、信仰され、愛されているのだと思いました。

(※きつねに詳しくないので、きつねに関する本でこの本が面白いよっていうのがあれば読んでみたいです

 ここまで書いた後に、Wikipediaも見てみたのですが、

夜行性で非常に用心深い反面、賢い動物で好奇心が強い。そのため大丈夫と判断すると大胆な行動をとりはじめる。

キツネ - Wikipedia

 ……こいつなら大丈夫かなんて思われて、揶揄われただけかもしれません。